文学フリマ東京29

 ワタクシ、第二十九回文学フリマ東京に出店します。

  第二十九回文学フリマ東京【入場無料】
  2019/11/24(日) 11:00〜17:00
  ・会場: 東京流通センター
  ・詳細: https://bunfree.net/event/tokyo29/

 今回持っていく本は――
 既刊が、クトゥルー神話作品集『真夜中のアウトサイダー/ガロス=レー』(800円)という短編二作入り。
 それと、大和屋竺の殺し屋映画研究本『暗殺のポルノ』(500円)というもの。

 そして新刊が、クトゥルー神話連作《髑髏水晶の魔女》シリーズの『水晶の中の銀河/月の庭園』短編二作(700円)。
 「水晶の中の銀河」は以前コピー誌として出したものの再録ですが、「月の庭園」は書下ろし新作です。

 ブースは【サ‐31】となっております。
 ぜひお立ち寄りください。

チラシ

 5月6日の文学フリマ無事に終わりました。
 ブースに足を運んでいただいた方ありがとうございました。


 で、以下は前回(2018年11月)の文学フリマで配布したチラシです。
 ミニゲームになっているので遊んでみてくださいね。


クトゥルー神話ミニアドベンチャーゲーム
『怪奇!叔父が消えた館』

 このチラシはゲームブック形式のミニゲームです。
 文章を読んで選択肢を選んだら、そこで指示された節へ進んでください。
 a~fのアルファベットの節にたどり着いたらそこで終わりです。


 あなたは親戚からたのまれ失踪した叔父を探すことになった。
 叔父は有名な考古学者で、あなたも大学で考古学を学んでいるのでわりと親しかったのだ。
 ここは都内の住宅街にある叔父の家である。あなたは、隠されていた鍵を発見して家へ入ることに成功した。
 部屋の中を調べると、机の上にノートを見つけた。
 ノートを開くと、叔父の文字がびっしり書き込まれている。
 それは『無名祭祀書』や『妖蛆の秘密』といった書物からの抜き書きと、その翻訳を試みたメモのようだった。
 どうやら叔父は、呪われた妖術師の一族について調べていたらしい。
 ノートの最後には「邪声館を調べる!」という走り書きがあって、住所も記されていた。
 叔父はそこへ行ったということだろうか?
 ほかに手掛かりらしいものは見つけられなかったので、あなたはこの邪声館なる場所へ行ってみることにした。
 部屋を出る前に、あなたは棚の上に並べられた三つのものに目を止めた。
 それは〈黒い鍵〉〈赤い石〉〈緑の瓶〉である。
 あなたは虫の知らせのようなものを感じて、このうちの一つを御守りとして持っていこうと思った。

  〈黒い鍵〉〈赤い石〉〈緑の瓶〉

 この三つのうちどれを持っていくか、一つを選んで記憶しておくこと。

 移動の途中、ネットで邪声館について調べると以下のことがわかった。

  ・明治時代に欧州から移住してきた妖術使いが住んでいたが、現在は無
  人の謎めいた館である。
  ・付近の村人が行方不明になることがあり、館で妖術の実験に使われた
  のではという噂がある。
  ・時おり中から奇怪な叫び声のようなものが聞こえるので“邪声館”と
  呼ばれている。


 その館は、千葉県某所の海にも近い森の中に建っていた。
 玄関のドアは開いていて、中に入ることができた。
 この先へ進むために、あなたは次の三つのルートから一つを選ばねばなら
ない。

  奥へ進む廊下   1へ
  二階へ上る階段  2へ
  地下へ下る階段  3へ


  1
 廊下を進むと突き当りにドアがあった。
 ドアから部屋に入るとその奥には大きな金庫のようなものが置かれていた。
  〈黒い鍵〉を持っているなら  aへ
  持っていなければ       bへ


  2
 階段を上っていくと天井から何かが垂れ下がってきた。
 それは無数の触手をもった怪物ニョグダだ!
  〈緑の瓶〉を持っているなら  cへ
  持っていなければ       dへ


  3
 階段を下っていくと暗い地下室へ出た。
 足を踏み入れると床の落とし穴が口を開けあなたは落下した。
  〈赤い石〉を持っているなら  eへ
  持っていなければ       fへ

  a
 あなたは〈黒い鍵〉を使うことで金庫の扉を開けることができた。
 そこには伝説の魔道書『ネクロノミコン』が――
 外国語の得意なあなたは読み始めると止まらなくなった。
 自宅へ持ち帰り研究をつづけることにした。
 その結果、禁断の知識に触れたためあなたは気が狂ってしまった。

  b
 金庫には鍵が掛かっていて開けられなかった。
 あなたが部屋の中央に立つと、床が光り出した。
 突然、気が遠くなるような感覚があった。
 気がつくと、そこは凍てつく荒野のカダスである。
 あなたはその地をさまよい歩いた末、食屍鬼の群れに襲われて死んだ。

  c
 あなたはニョグダに〈緑の瓶〉を投げつけた。
 中の液体がかかると怪物は溶けながら消え去った。
 二階の部屋には一枚の肖像画があった。館の主の妖術師を描いたものだ。
 そしてその顔のは叔父とよく似ている気がした。それ以上にあなた自身に似ている。あなたは呪われた妖術師の子孫なのだった。

  d
 ニョグダはあなたに襲いかかってきた。
 無数の触手が体中に絡みつき引き寄せられていった。
 巨大な口に飲みこまれ、あなたは死んだ。

  e
 あなたの身体は宙に浮いていた。〈赤い石〉が光っていた。
 石の力で落とし穴には落ちずに済んだ。
 地下室を調べると手帳を見つけた。それは叔父の残したもののようだ。
 この手帳の内容を調べれば叔父の行き先がわかるだろう。探索はつづく。
 
  f
 落下したあなたは斜めになった通路を滑り降りていった。
 そして海中へ投げ出された。溺れる……
 そう思ったが、あなたの身体に変化が生じた。
 手足には水かきが、呼吸はえらでできた。
 あなたは〈深きもの〉とよばれる海棲人だったのだ。
 何かに導かれるように深海へと旅立っていった。

文学フリマ東京28

 明日(2019/05/06)文学フリマ東京に出店します。
   https://bunfree.net/event/tokyo28/#20190506
 いつもはクトゥルー神話小説が専門の私ですが、今回は映画評論です。
 脚本家・映画監督の大和屋竺についての研究本『暗殺のポルノ』というのを出します。
 内容は――
〈復讐の悪夢空間
 大和屋の監督としての代表作『裏切りの季節』『荒野のダッチワイフ』『毛の生えた拳銃』についての論考。
 エドカー・アラン・ポーやアンブローズ・ビアスの小説との関わりや、三作に共通の構造など。
〈帰ってきた男〉
 『殺しの烙印』について。
 同時期の『拳銃は俺のパスポート』との比較、また、リチャード・スタークの小説『悪党パーカー/人狩り』経由でリンクした『殺しの分け前ポイント・ブランク』との比較から『殺しの烙印』の特徴を明らかにする試み。
〈荒野のメタルスーツ〉
 『荒野のダッチワイフ』の影響を受けた押井守監督作『紅い眼鏡』について。
 そして『荒野のダッチワイフ』は《ループもの》なのかについて。
 と、いった感じになっています。他に、BGM用楽曲リストや、関連した殺し屋映画の紹介もあります。

 ブースは【エ-29】、サークル名「地下石版」です。
 前回出しましたクトゥルー神話作品集『真夜中のアウトサイダー/ガロス=レー』も置いてます。

 価格は――
 『暗殺のポルノ』500円
 『真夜中のアウトサイダー/ガロス=レー』800円
 となっています。
 よろしくお願いします。

文学フリマ東京27

 今月25日に開催される文学フリマ東京に出店します。
 今回出すものは、クトゥルー神話作品集『真夜中のアウトサイダー/ガロス=レー』という本です。
 内容はーー
 ポーの「赤き死の仮面」を原作としたオペラを構想中の作曲家からの依頼で、私立探偵が失踪したジャズミュージシャンについて調べる「真夜中のアウトサイダー」と、
 ラノベ作家と編集者のコンビが、作者の異なる小説やゲームで言及される謎の存在《ガロス=レー》の正体に迫る「ガロス=レー」
 という短編小説二作入りです。価格800円。
 あと、前回出した前回のコピー誌七冊セット《夢幻都市の黄昏》も持っていきます。
 サークル名は「地下石版」、ブースは【E-44】です。

bunfree.net


 以下は、前回の文学フリマ東京26で配布したチラシのテキストです。

平和島を覆う霧――ドクロ水晶のマ女 番外編

 平島ユウジは京浜急行平和島駅で降りた。
 文学フリマの会場へ行くためである。
 その会場、東京流通センターへはモノレールに乗れば徒歩1分の流通センター駅に着くのだが、大田区蒲田在住のユウジは交通費を節約するために京急の駅から歩くことにしたのだ。微妙に遠いが。
 道は環七沿いに歩けば、ほぼ一直線なので迷う心配はないはずだった。
 首都高を越える歩道橋の階段を上がっていくと、霧が出てきた。
 こんなところで霧とはおかしいなとユウジは思ったが、ともかく進んだ。
一時はまったく視界が効かなくなるほど濃霧になったが、何とか歩道橋を降りるとすぐに晴れた。
 しかし、いくら歩いても流通センターらしき建物には着かなかった。大きな倉庫ばかりが並んでいるところへ来てしまった。
 これは道を間違ったかなと思っていると、前方に人影が見えた。
 奇妙な人物だった。白髪で白いスーツを着て、その上に黒いマント、手にはステッキを持っていた。まるで『仮面ライダー』の敵ショッカーの初代幹部、死神博士のようだった。
 コスプレかな、とユウジは思ったが顔を見るとしわ深い老人である。こっちを睨んでいた。
 できれば近づきたくなかったが、いきなり引き返すのも何なので、仕方なく直進した。
 老人はやはり、刺すような視線でこちらを見ていた。ユウジが緊張しつつすれ違おうとした時、サッと突き出されたステッキが行く手を遮った。
「えっ」と驚くユウジに老人が言った。
「きみは文学フリマへ行こうとしてるのではないのか?」
 ひどくしわがれた声だ。
「え、ええ、そうですけど」
「会場はこちらだ。ついてきなさい」
 と、死神博士風の老人は、倉庫の間の細道へユウジを導いた。
「あの、あなたは?」とユウジは尋ねた。
「私の名は脳見文市、ドクター・ノーミとでも呼んでくれたまえ」
「はあ」
 ユウジは倉庫の入口へ連れてこられた。そこには段ボールに手書きのマジックで《BUNGAKU Flea Ma.》と看板が出ていた。
 ドクターに背中を押されユウジは会場内へ入った。

 薄暗い空間をテーブルがコの字型に取り巻いていた。外側に座った売り子たちは皆、目を伏せ暗い表情をしていた。
「こ、これが文学フリマ……」
「さあ、こちらへ、いいものがあるぞ」
 ドクター・ノーミが彼を右側の端のブースへ招いた。
 テーブルに本が積み上げてある。ユウジが近づいても売り子はうつむいたまま何も言わなかった。
「これは?」
「大江春泥作の幻のアンチミステリ『隠花植物』だぞ」
「はあ」
「なんだ探偵小説は苦手か。ではこれはどうだ」
 ノーミは隣のブースの本を指差した。
アレイスター・クロウリーが書いた秘教的スペースオペラ『ポセイドンの目覚め』だ。欲しいだろう」
「いえ、べつに」
「ふむ、では、別のタイプの本にするか」
 ユウジは左側の列へ連れていかれた。
「これは『洋酒の秘密』」
「何の本ですか?」
「洋酒、つまり西洋の酒についての本だな」
「興味ないですねえ」
 隣のブースへ移動した。
「『試食狂典儀』はどうだ? デパ地下の試食品だけで生活する方法が書いてある」
「何なんですかそれは」
「これも気に入らんか。ならばとっておきの本を見せてやろう」
 ユウジは奥のテーブル、いわゆるお誕生日席へ誘導された。そこには赤い革表紙の分厚い本が一冊だけ置かれていた。
「これこそは究極の魔導書『アクロ=ガイスト』だ。お前が求めている本はこれだろう」
「ぼくはラノベっぽいやつが欲しいんですが」
「いや、お前はこの本が欲しいはずだ。ここを見てみろ」
 ドクター・ノーミは本のページを開いた。そこには六角形の中に奇妙な記号を配置した図が描かれていた。
 ユウジがその図にチラッと目を向けると、急に惹きつけられるものを感じた。
「どうだ欲しくなってきたか」
 ノーミが囁くように言った。

「えっ、ええ、何だか欲しくなってきました」
 まるで心をあやつられているかのようにユウジは答えた。
「そうか、本当に欲しいんだな」
「あ、あの、お値段は?」
「先着一名に限り無料なのだ」
「えっ、タダ、この素晴らしい本が」
「そうだ。欲しければこの契約書にサインしたまえ」
「はい、すぐにサインします」
 ノーミが差し出したペンを受け取りユージはテーブルに広げられた契約書に名前を書き入れようとした。
 その時――。
「待ちなさい!」と女の声が響いた。
 見るとそこには女が一人立っていた。黒いワンピースに鮮やかなオレンジ
のスニーカーを履いていた。右手にはドクロ型の水晶が握られていた。
「キサマ、何者だ!?」とノーミが言った。
「私の名は蒼井水緒」
「ふ、そうか、ドクロ水晶のマ女とか呼ばれている占い師だな。邪魔はさせんぞ」ノーミは素早くステッキを振って虚空に五芒星を描いた。「出でよ、ネクロゴーレム!」
 光り輝く文字が空中に集まり、次第に身長二メートルほどの巨人の姿を形作り始めた。
 蒼井水緒は落ち着いて水晶ドクロを掲げると呪文を唱え始めた。「ドクラドーマ、ドクマグーマ」
 ドクロが激しく発光した。
「くっ」ドクターは焦った。
 ネクロゴーレムはまだ動かなかった。容量が大きいぶん起動までに時間がかかるのだった。
「ルギ!」と水緒が叫ぶとドクロの口から光の矢が飛んだ。
 ドクター・ノーミはその一撃で心臓を貫かれて灰になった。
 ゴーレムは塵に帰り、会場の売り子たちの姿もいつの間にか消えていた。
「この人は一体……?」とユウジは聞いた。
「魔導書に寄生していた蚤の妖魔です。あの契約書にサインしていればあなたは身体を乗っ取られるところでした」
「ええっ、そうだったんですか」
「交通費をケチるのもいいけど、会場までの道順ぐらい覚えておくように」
「はい」
 それからユウジは蒼井水緒に案内され、やっと本当の文学フリマの会場にたどり着けたのであった。
(終)


 文中、死神博士を「ショッカーの初代幹部」とか書いてますが、最近見直したらゾル大佐がいたので登場順では二代目でしたね。
 今回も新チラシ作りました。会場で配布します。

スピルバーグ・ユニバースのクトゥルー神話

 あるセールスマンが出張のため車でハイウェイを走っていると、後ろからトレーラーにあおられ追突されそうになる。
 必死で逃げるセールスマン。トレーラーは崖から転落し炎上する。
 警察が残骸を調べると、その中から古代文字が刻まれた石版の欠片が出てくる。
 一方、とある観光地のビーチでは人喰いザメがあらわれパニックになっていた。
 ハンターが仕留めたサメの胃袋を調べると、そこからも古代文字が刻まれた石版の欠片が出てくる。


 ミスカトニック大学で考古学を教えているインディ・ジョーンズ教授のもとを政府職員がおとずれ、二つの石版の欠片を見せ、その出所の調査を依頼する。
 インディはその石版の文字が南米のある遺跡特有のものと突き止め、調査に行く。現地で謎の金髪美女と知り合う。
 遺跡を調べると邪神の彫像が見つかる。だがその直後、謎の武装集団に襲われ彫像は奪われてしまう。


 大学へ戻ったインディはFBIからの報告で、トレーラーが暴走したのは、ある宗教団体のために荷物を運んだ帰路だったことが判る。その宗教団体の施設が人喰いザメがあらわれたビーチの近くにあるのだ。トレーラーが運んでいたのは海底調査用の機材だった。
 インディは大学図書館の資料で南米で目にした彫像を調べ、それがクトゥルー像ではないかと考える。
 宗教団体の施設を調べに行くインディ。そこで南米で会った金髪美女と再会する。彼女はCIAの調査員だったのだ。
 そこへまた武装集団が襲ってくる。かれらは宗教団体に雇われた傭兵部隊らしい。インディは銃弾を受け意識を失う。


 気がつくとインディは、傷の手当てを受けていた。彼を助けたのはアマチュアのUFO研究家のグループだった。
 かれらは宇宙からの謎の電波を受信し、UFO召喚の儀式を行っているのだった。
 かれらの得た情報によると、宗教団体は海底から輝くトラペゾヘドロンという神秘的な物体を引き上げた。その作業中に観光客を近寄らせないために、石版の欠片を使って人喰いザメをコントロールしていた。トレーラーの運転手も秘密を守るため処分したのだった。
 宗教団体は、輝くトラペゾヘドロンの力を使ってクトゥルーを召喚しようとしているらしい。
 捕らえられた金髪美女はクトゥルーへの生贄にされるだろう。その儀式が行われるのはインスマスという海辺の町だと教えられる。


 電波障害で無線が使えず、インディは一人でインスマスへ向かう。
 何とか金髪美女は助け出すが、深きものどもに包囲されて町から脱出できない。その上、海上には召喚されたクトゥルーも姿を見せている。
 もうだめか、と思われたとき、空に巨大UFOがあらわれる。UFO研究家の召喚儀式が成功したのだ。
 UFOからの光を受けると、深きものどもは体が溶け出し逃走する。クトゥルーもUFOから光線で攻撃され沈んでいった。


 ……というわけで、『レディ・プレイヤー1』を見たので、考えたスピルバーグ・ユニバースのクトゥルー神話でした。

マドニーマドニーで終わる話

 『ユリイカ』2018年2月号は「クトゥルー神話の世界」だったわけだが、その中に久正人の「マドニー・マドニー」というマンガが載っていた。長さ2ページの箸休め的なものである。
 内容は、江戸時代の読本作者らしき男が主人公で、ご隠居から「ラヴクラフトというメリケンの物書きの本」の話を聞き、最後に「マドニーマドニー」とつければどんな話にでもオチがつけられると思い込む。そして、大量の本を出版し、破滅するといったもの。

 この男の失敗の原因は、言うまでもなく、話の脈絡というものを考えずに、無理矢理に「マドニーマドニー」というフレーズを繋げてしまったことにある。
 しかし、では、どんな内容の話であれば「マドニーマドニー」、つまり「窓に! 窓に!」というフレーズで終わることができるのか、それを考えてみたい。

 「窓に!」で終わるということは、窓越しに何か恐ろしいものが見え、語り手はその何かに襲われるという暗示であると考えられる。襲われることが予測されるということは、語り手はその何かに追われていたのだろう。
 つまり、主人公が恐ろしい何者かに追われ、一時的に安全な場所へ逃げのびたが、窓から外を見ると、そこに恐ろしいものが迫ってきていた、といった話である。ちょっとしたサスペンスものならこれで成立する。例えば、ピエロメイクの殺人鬼に意味もなく追われるとか。
 では、これをクトゥルー神話にするにはどうするか。
 主人公が追われる理由を、旧支配者の秘密を知ってしまったから、というふうにすればよい。
 「ダゴン」の主人公の場合は、海底から隆起した島に上陸したことでそれを知ったのである。
 そして、その秘密を知るまでの紆余曲折を長めにすれば「クトゥルーの呼び声」のようになるし、主人公のモデルを友人の作家にすれば「闇にさまようもの」のようになる。

もう一つの「クトゥルーの呼び声」へ向かって

注:この文章は、前回2017年11月の文学フリマ東京の会場で配布したチラシのものです(多少改変してます)。

クトゥルー神話とは何か?

 それは、1920~30年代にパルプ雑誌怪奇小説を発表していたH・P・ラヴクラフトが、文通などで交流のあった他の小説家と魔道書や邪神の名などを秘かに共有していたことから作り上げられていった神話体系であり、その内容は、太古の邪神がいかに人類を脅かすかといったことが描かれている――と、まあ大雑把に説明すればこんな感じだ。
 そして現在、それはここ日本でも多くの作家によって書き継がれ、TRPGのリプレイという形でネットの動画サイトをも賑わしている(一説によると5800円もする『クトゥルフ神話TRPG』のルールブックが女子高生たちに飛ぶように売れているとか)。
 つまりちょっとしたブームになっているわけだが、しかし、その内実はと言えば、ライトノベルもあれば架空戦記もあるといった具合にひじょうに拡散しているのが現状である。それが悪いと言うつもりはないが、が、では立ち返るべき中心はどこにあるのか、それを確認しておくのも無益ではないだろう。拡散したまま雲散霧消とならないために。

クトゥルー神話で最重要の一作は?

 数あるクトゥルー神話の中で最重要の一作、中心となる作品は何か、と問われるなら、やはりラヴクラフト作「クトゥルーの呼び声」を挙げたい。
 いや、しかし、クトゥルー神話は用語の共有を起源としている、つまり複数の作品の関係性が神話と呼ばれているのだからどれか一作を中心として選ぶことはできないのではないか、と考えることもできる。
 だが、さにあらず、「クトゥルーの呼び声」という作品は一読あきらかなように三部構成になっている。で、この三部はそれぞれ独立したエピソードとしても読める(その証拠にたとえばラヴクラフトの短編「ピックマンのモデル」「レッド・フックの恐怖」「ダゴン」を並べて細部を調整すれば「クトゥルーの呼び声」とだいたい同じ話ができる)。つまり「クトゥルーの呼び声」には、〈粘土板の恐怖〉〈ルグラース警視の話〉〈海からの狂気〉という三つ章、さらにその中で言及される無数のエピソード、それらの関係性の探求が描かれている。言い換えれば、クトゥルー神話の発見それ自体が主題となっているのである。これが「クトゥルーの呼び声」を神話作品の中心をなす最重要作と考える理由である。

クトゥルーの呼び声」と似た作品

 であるならば、クトゥルー神話を書き継ぐ、それもジャンルの中心に向かって書くということは、もう一つの「クトゥルーの呼び声」を目指して書く、ということになるだろう。
 そこで以下は、ラヴクラフト以前も含め、「クトゥルーの呼び声」と似たところのある作品の系譜をたどることで、神話体系の中心軸を明らかにする試みである。

E・A・ポー「アッシャー家の崩壊」

 ラヴクラフトの「闇をさまようもの」の主人公が自分は“ロデリック・アッシャー”だと言っているのでこれもクトゥルー神話関連作ではある。この作品が描いているのは言わば、幻想と現実の一致である。そしてそれがなぜ起こるのかは、死者の復活が“早すぎた埋葬”と説明されるように、偶然とされる。この幻想と現実の一致に、単なる偶然とは別の理由を求めたのが「クトゥルーの呼び声」なのである。

アンブローズ・ビアス「月明かりの道」

 「月明かりの道」は三つの証言の総合によって真相が浮き上がる構成になっている。この三つの証言が「クトゥルーの呼び声」の三部構成の元ネタではないか。だとすれば、この作品の影響下に書かれた芥川龍之介「藪の中」は「クトゥルーの呼び声」と異母兄弟のような位置づけとなる。

H・P・ラヴクラフト「ピックマンのモデル」

 この作品も、絵画と写真の一致、つまり幻想と現実の一致を描いている。なので「アッシャー家の崩壊」の絵画版であり、最小構成で語りなおされた「クトゥルーの呼び声」とも言える。このことは「クトゥルーの呼び声」が当初「ウィアード・テールズ」への掲載を断られたことと関係があるのかも。

R・E・ハワード「黒い石」

 ハワードのクトゥルー神話関連作の中でもとくにラヴクラフト的と言えるのが「屋根の上」と「黒い石」の二作。その「黒い石」の方は三部構成で、『黒の書』の入手を発端に、第二部では人身御供の儀式が描かれ、結末で悪夢の実在が明かされる。「クトゥルーの呼び声」の山バージョンといった趣である。

オーガスト・ダーレス《永劫の探求》

 青心社文庫『クトゥルー2』がこの作品。一話ごとに語り手の代わる手記の連作。各話でシュリュズベリイ博士がクトゥルー教団と戦う若者をスカウトしていくゴーストハンターものとしてのクトゥルー神話。とくに第三部「クレイボーン・ボイドの遺書」は大叔父の遺品の調査から探索が始まり「クトゥルーの呼び声」の再話のよう。

リン・カーター《超時間の恐怖》

 『クトゥルーの子供たち』の中の「赤の供物」から「ウィンフィールドの遺産」までの六短編による連作。超古代と現代を交錯させつつ微妙なリンクによって連関している。その構成の仕方に世界観の広がりを感じさせるクトゥルー神話らしさがある。「クトゥルーの呼び声」の発展形を考えると短編連作という形になるのでは。

コリン・ウィルソン「ロイガーの復活」

 「クトゥルーの呼び声」におけるクトゥルーは夢を通して人類を支配しようとしていたようだ。人類の精神を支配するものの探求というテーマを引き継いだのがウィルソンだと言える。この「ロイガーの復活」は長編『賢者の石』に組み込まれる予定だった手記を独立させたもので、クトゥルー神話のサンプル、「クトゥルーの呼び声」のクローンのような作品。

ブライアン・ラムレイ『地を穿つ魔』

 《タイタス・クロウ・サーガ》第一巻。ゴーストハンターのタイタス・クロウが地底に潜む旧支配者クトーニアンと対決する。独立した短編としても読める手紙が組み込まれた情報収集の過程などは面白いが結末近くは散漫な印象。続巻へつなげるためかもしれないが、その二巻以降は雰囲気のまるで違うスペースオペラになってしまう。

J・G・バラード「時の声」

 クトゥルー神話以外からもう一作挙げる。バラードの代表的な短編。死んだ学者の研究を引き継いだ主人公が狂気に陥るまでを描いているという点で「クトゥルーの呼び声」と似ている。謎めいたオブジェや実験動物の変容といった未知の現象に関する多角的な情報の出し方など参考にしたい。

 で、ここからは宣伝です。

 前回の文学フリマでは私、小倉蛇は《髑髏水晶の魔女》シリーズの第一巻として「水晶の中の銀河」という小説のコピー誌を販売しました。この作品は現在は電子書籍化しパブーにて販売中です。一部100円。

 http://p.booklog.jp/book/121729


 そして来る5月6日の第26回文学フリマ東京にも出店します。

 https://bunfree.net/

 サークル名は《地下石版》、ブースは【イ‐32】です。
 販売するのは『夢幻都市の黄昏』というコピー誌のセットです。中身はクトゥルー神話短編6冊プラス小論1冊です。価格450円。
 気になる方は足をお運びください。