文学フリマ東京27

 今月25日に開催される文学フリマ東京に出店します。
 今回出すものは、クトゥルー神話作品集『真夜中のアウトサイダー/ガロス=レー』という本です。
 内容はーー
 ポーの「赤き死の仮面」を原作としたオペラを構想中の作曲家からの依頼で、私立探偵が失踪したジャズミュージシャンについて調べる「真夜中のアウトサイダー」と、
 ラノベ作家と編集者のコンビが、作者の異なる小説やゲームで言及される謎の存在《ガロス=レー》の正体に迫る「ガロス=レー」
 という短編小説二作入りです。価格800円。
 あと、前回出した前回のコピー誌七冊セット《夢幻都市の黄昏》も持っていきます。
 サークル名は「地下石版」、ブースは【E-44】です。

bunfree.net


 以下は、前回の文学フリマ東京26で配布したチラシのテキストです。

平和島を覆う霧――ドクロ水晶のマ女 番外編

 平島ユウジは京浜急行平和島駅で降りた。
 文学フリマの会場へ行くためである。
 その会場、東京流通センターへはモノレールに乗れば徒歩1分の流通センター駅に着くのだが、大田区蒲田在住のユウジは交通費を節約するために京急の駅から歩くことにしたのだ。微妙に遠いが。
 道は環七沿いに歩けば、ほぼ一直線なので迷う心配はないはずだった。
 首都高を越える歩道橋の階段を上がっていくと、霧が出てきた。
 こんなところで霧とはおかしいなとユウジは思ったが、ともかく進んだ。
一時はまったく視界が効かなくなるほど濃霧になったが、何とか歩道橋を降りるとすぐに晴れた。
 しかし、いくら歩いても流通センターらしき建物には着かなかった。大きな倉庫ばかりが並んでいるところへ来てしまった。
 これは道を間違ったかなと思っていると、前方に人影が見えた。
 奇妙な人物だった。白髪で白いスーツを着て、その上に黒いマント、手にはステッキを持っていた。まるで『仮面ライダー』の敵ショッカーの初代幹部、死神博士のようだった。
 コスプレかな、とユウジは思ったが顔を見るとしわ深い老人である。こっちを睨んでいた。
 できれば近づきたくなかったが、いきなり引き返すのも何なので、仕方なく直進した。
 老人はやはり、刺すような視線でこちらを見ていた。ユウジが緊張しつつすれ違おうとした時、サッと突き出されたステッキが行く手を遮った。
「えっ」と驚くユウジに老人が言った。
「きみは文学フリマへ行こうとしてるのではないのか?」
 ひどくしわがれた声だ。
「え、ええ、そうですけど」
「会場はこちらだ。ついてきなさい」
 と、死神博士風の老人は、倉庫の間の細道へユウジを導いた。
「あの、あなたは?」とユウジは尋ねた。
「私の名は脳見文市、ドクター・ノーミとでも呼んでくれたまえ」
「はあ」
 ユウジは倉庫の入口へ連れてこられた。そこには段ボールに手書きのマジックで《BUNGAKU Flea Ma.》と看板が出ていた。
 ドクターに背中を押されユウジは会場内へ入った。

 薄暗い空間をテーブルがコの字型に取り巻いていた。外側に座った売り子たちは皆、目を伏せ暗い表情をしていた。
「こ、これが文学フリマ……」
「さあ、こちらへ、いいものがあるぞ」
 ドクター・ノーミが彼を右側の端のブースへ招いた。
 テーブルに本が積み上げてある。ユウジが近づいても売り子はうつむいたまま何も言わなかった。
「これは?」
「大江春泥作の幻のアンチミステリ『隠花植物』だぞ」
「はあ」
「なんだ探偵小説は苦手か。ではこれはどうだ」
 ノーミは隣のブースの本を指差した。
アレイスター・クロウリーが書いた秘教的スペースオペラ『ポセイドンの目覚め』だ。欲しいだろう」
「いえ、べつに」
「ふむ、では、別のタイプの本にするか」
 ユウジは左側の列へ連れていかれた。
「これは『洋酒の秘密』」
「何の本ですか?」
「洋酒、つまり西洋の酒についての本だな」
「興味ないですねえ」
 隣のブースへ移動した。
「『試食狂典儀』はどうだ? デパ地下の試食品だけで生活する方法が書いてある」
「何なんですかそれは」
「これも気に入らんか。ならばとっておきの本を見せてやろう」
 ユウジは奥のテーブル、いわゆるお誕生日席へ誘導された。そこには赤い革表紙の分厚い本が一冊だけ置かれていた。
「これこそは究極の魔導書『アクロ=ガイスト』だ。お前が求めている本はこれだろう」
「ぼくはラノベっぽいやつが欲しいんですが」
「いや、お前はこの本が欲しいはずだ。ここを見てみろ」
 ドクター・ノーミは本のページを開いた。そこには六角形の中に奇妙な記号を配置した図が描かれていた。
 ユウジがその図にチラッと目を向けると、急に惹きつけられるものを感じた。
「どうだ欲しくなってきたか」
 ノーミが囁くように言った。

「えっ、ええ、何だか欲しくなってきました」
 まるで心をあやつられているかのようにユウジは答えた。
「そうか、本当に欲しいんだな」
「あ、あの、お値段は?」
「先着一名に限り無料なのだ」
「えっ、タダ、この素晴らしい本が」
「そうだ。欲しければこの契約書にサインしたまえ」
「はい、すぐにサインします」
 ノーミが差し出したペンを受け取りユージはテーブルに広げられた契約書に名前を書き入れようとした。
 その時――。
「待ちなさい!」と女の声が響いた。
 見るとそこには女が一人立っていた。黒いワンピースに鮮やかなオレンジ
のスニーカーを履いていた。右手にはドクロ型の水晶が握られていた。
「キサマ、何者だ!?」とノーミが言った。
「私の名は蒼井水緒」
「ふ、そうか、ドクロ水晶のマ女とか呼ばれている占い師だな。邪魔はさせんぞ」ノーミは素早くステッキを振って虚空に五芒星を描いた。「出でよ、ネクロゴーレム!」
 光り輝く文字が空中に集まり、次第に身長二メートルほどの巨人の姿を形作り始めた。
 蒼井水緒は落ち着いて水晶ドクロを掲げると呪文を唱え始めた。「ドクラドーマ、ドクマグーマ」
 ドクロが激しく発光した。
「くっ」ドクターは焦った。
 ネクロゴーレムはまだ動かなかった。容量が大きいぶん起動までに時間がかかるのだった。
「ルギ!」と水緒が叫ぶとドクロの口から光の矢が飛んだ。
 ドクター・ノーミはその一撃で心臓を貫かれて灰になった。
 ゴーレムは塵に帰り、会場の売り子たちの姿もいつの間にか消えていた。
「この人は一体……?」とユウジは聞いた。
「魔導書に寄生していた蚤の妖魔です。あの契約書にサインしていればあなたは身体を乗っ取られるところでした」
「ええっ、そうだったんですか」
「交通費をケチるのもいいけど、会場までの道順ぐらい覚えておくように」
「はい」
 それからユウジは蒼井水緒に案内され、やっと本当の文学フリマの会場にたどり着けたのであった。
(終)


 文中、死神博士を「ショッカーの初代幹部」とか書いてますが、最近見直したらゾル大佐がいたので登場順では二代目でしたね。
 今回も新チラシ作りました。会場で配布します。

スピルバーグ・ユニバースのクトゥルー神話

 あるセールスマンが出張のため車でハイウェイを走っていると、後ろからトレーラーにあおられ追突されそうになる。
 必死で逃げるセールスマン。トレーラーは崖から転落し炎上する。
 警察が残骸を調べると、その中から古代文字が刻まれた石版の欠片が出てくる。
 一方、とある観光地のビーチでは人喰いザメがあらわれパニックになっていた。
 ハンターが仕留めたサメの胃袋を調べると、そこからも古代文字が刻まれた石版の欠片が出てくる。


 ミスカトニック大学で考古学を教えているインディ・ジョーンズ教授のもとを政府職員がおとずれ、二つの石版の欠片を見せ、その出所の調査を依頼する。
 インディはその石版の文字が南米のある遺跡特有のものと突き止め、調査に行く。現地で謎の金髪美女と知り合う。
 遺跡を調べると邪神の彫像が見つかる。だがその直後、謎の武装集団に襲われ彫像は奪われてしまう。


 大学へ戻ったインディはFBIからの報告で、トレーラーが暴走したのは、ある宗教団体のために荷物を運んだ帰路だったことが判る。その宗教団体の施設が人喰いザメがあらわれたビーチの近くにあるのだ。トレーラーが運んでいたのは海底調査用の機材だった。
 インディは大学図書館の資料で南米で目にした彫像を調べ、それがクトゥルー像ではないかと考える。
 宗教団体の施設を調べに行くインディ。そこで南米で会った金髪美女と再会する。彼女はCIAの調査員だったのだ。
 そこへまた武装集団が襲ってくる。かれらは宗教団体に雇われた傭兵部隊らしい。インディは銃弾を受け意識を失う。


 気がつくとインディは、傷の手当てを受けていた。彼を助けたのはアマチュアのUFO研究家のグループだった。
 かれらは宇宙からの謎の電波を受信し、UFO召喚の儀式を行っているのだった。
 かれらの得た情報によると、宗教団体は海底から輝くトラペゾヘドロンという神秘的な物体を引き上げた。その作業中に観光客を近寄らせないために、石版の欠片を使って人喰いザメをコントロールしていた。トレーラーの運転手も秘密を守るため処分したのだった。
 宗教団体は、輝くトラペゾヘドロンの力を使ってクトゥルーを召喚しようとしているらしい。
 捕らえられた金髪美女はクトゥルーへの生贄にされるだろう。その儀式が行われるのはインスマスという海辺の町だと教えられる。


 電波障害で無線が使えず、インディは一人でインスマスへ向かう。
 何とか金髪美女は助け出すが、深きものどもに包囲されて町から脱出できない。その上、海上には召喚されたクトゥルーも姿を見せている。
 もうだめか、と思われたとき、空に巨大UFOがあらわれる。UFO研究家の召喚儀式が成功したのだ。
 UFOからの光を受けると、深きものどもは体が溶け出し逃走する。クトゥルーもUFOから光線で攻撃され沈んでいった。


 ……というわけで、『レディ・プレイヤー1』を見たので、考えたスピルバーグ・ユニバースのクトゥルー神話でした。

マドニーマドニーで終わる話

 『ユリイカ』2018年2月号は「クトゥルー神話の世界」だったわけだが、その中に久正人の「マドニー・マドニー」というマンガが載っていた。長さ2ページの箸休め的なものである。
 内容は、江戸時代の読本作者らしき男が主人公で、ご隠居から「ラヴクラフトというメリケンの物書きの本」の話を聞き、最後に「マドニーマドニー」とつければどんな話にでもオチがつけられると思い込む。そして、大量の本を出版し、破滅するといったもの。

 この男の失敗の原因は、言うまでもなく、話の脈絡というものを考えずに、無理矢理に「マドニーマドニー」というフレーズを繋げてしまったことにある。
 しかし、では、どんな内容の話であれば「マドニーマドニー」、つまり「窓に! 窓に!」というフレーズで終わることができるのか、それを考えてみたい。

 「窓に!」で終わるということは、窓越しに何か恐ろしいものが見え、語り手はその何かに襲われるという暗示であると考えられる。襲われることが予測されるということは、語り手はその何かに追われていたのだろう。
 つまり、主人公が恐ろしい何者かに追われ、一時的に安全な場所へ逃げのびたが、窓から外を見ると、そこに恐ろしいものが迫ってきていた、といった話である。ちょっとしたサスペンスものならこれで成立する。例えば、ピエロメイクの殺人鬼に意味もなく追われるとか。
 では、これをクトゥルー神話にするにはどうするか。
 主人公が追われる理由を、旧支配者の秘密を知ってしまったから、というふうにすればよい。
 「ダゴン」の主人公の場合は、海底から隆起した島に上陸したことでそれを知ったのである。
 そして、その秘密を知るまでの紆余曲折を長めにすれば「クトゥルーの呼び声」のようになるし、主人公のモデルを友人の作家にすれば「闇にさまようもの」のようになる。

もう一つの「クトゥルーの呼び声」へ向かって

注:この文章は、前回2017年11月の文学フリマ東京の会場で配布したチラシのものです(多少改変してます)。

クトゥルー神話とは何か?

 それは、1920~30年代にパルプ雑誌怪奇小説を発表していたH・P・ラヴクラフトが、文通などで交流のあった他の小説家と魔道書や邪神の名などを秘かに共有していたことから作り上げられていった神話体系であり、その内容は、太古の邪神がいかに人類を脅かすかといったことが描かれている――と、まあ大雑把に説明すればこんな感じだ。
 そして現在、それはここ日本でも多くの作家によって書き継がれ、TRPGのリプレイという形でネットの動画サイトをも賑わしている(一説によると5800円もする『クトゥルフ神話TRPG』のルールブックが女子高生たちに飛ぶように売れているとか)。
 つまりちょっとしたブームになっているわけだが、しかし、その内実はと言えば、ライトノベルもあれば架空戦記もあるといった具合にひじょうに拡散しているのが現状である。それが悪いと言うつもりはないが、が、では立ち返るべき中心はどこにあるのか、それを確認しておくのも無益ではないだろう。拡散したまま雲散霧消とならないために。

クトゥルー神話で最重要の一作は?

 数あるクトゥルー神話の中で最重要の一作、中心となる作品は何か、と問われるなら、やはりラヴクラフト作「クトゥルーの呼び声」を挙げたい。
 いや、しかし、クトゥルー神話は用語の共有を起源としている、つまり複数の作品の関係性が神話と呼ばれているのだからどれか一作を中心として選ぶことはできないのではないか、と考えることもできる。
 だが、さにあらず、「クトゥルーの呼び声」という作品は一読あきらかなように三部構成になっている。で、この三部はそれぞれ独立したエピソードとしても読める(その証拠にたとえばラヴクラフトの短編「ピックマンのモデル」「レッド・フックの恐怖」「ダゴン」を並べて細部を調整すれば「クトゥルーの呼び声」とだいたい同じ話ができる)。つまり「クトゥルーの呼び声」には、〈粘土板の恐怖〉〈ルグラース警視の話〉〈海からの狂気〉という三つ章、さらにその中で言及される無数のエピソード、それらの関係性の探求が描かれている。言い換えれば、クトゥルー神話の発見それ自体が主題となっているのである。これが「クトゥルーの呼び声」を神話作品の中心をなす最重要作と考える理由である。

クトゥルーの呼び声」と似た作品

 であるならば、クトゥルー神話を書き継ぐ、それもジャンルの中心に向かって書くということは、もう一つの「クトゥルーの呼び声」を目指して書く、ということになるだろう。
 そこで以下は、ラヴクラフト以前も含め、「クトゥルーの呼び声」と似たところのある作品の系譜をたどることで、神話体系の中心軸を明らかにする試みである。

E・A・ポー「アッシャー家の崩壊」

 ラヴクラフトの「闇をさまようもの」の主人公が自分は“ロデリック・アッシャー”だと言っているのでこれもクトゥルー神話関連作ではある。この作品が描いているのは言わば、幻想と現実の一致である。そしてそれがなぜ起こるのかは、死者の復活が“早すぎた埋葬”と説明されるように、偶然とされる。この幻想と現実の一致に、単なる偶然とは別の理由を求めたのが「クトゥルーの呼び声」なのである。

アンブローズ・ビアス「月明かりの道」

 「月明かりの道」は三つの証言の総合によって真相が浮き上がる構成になっている。この三つの証言が「クトゥルーの呼び声」の三部構成の元ネタではないか。だとすれば、この作品の影響下に書かれた芥川龍之介「藪の中」は「クトゥルーの呼び声」と異母兄弟のような位置づけとなる。

H・P・ラヴクラフト「ピックマンのモデル」

 この作品も、絵画と写真の一致、つまり幻想と現実の一致を描いている。なので「アッシャー家の崩壊」の絵画版であり、最小構成で語りなおされた「クトゥルーの呼び声」とも言える。このことは「クトゥルーの呼び声」が当初「ウィアード・テールズ」への掲載を断られたことと関係があるのかも。

R・E・ハワード「黒い石」

 ハワードのクトゥルー神話関連作の中でもとくにラヴクラフト的と言えるのが「屋根の上」と「黒い石」の二作。その「黒い石」の方は三部構成で、『黒の書』の入手を発端に、第二部では人身御供の儀式が描かれ、結末で悪夢の実在が明かされる。「クトゥルーの呼び声」の山バージョンといった趣である。

オーガスト・ダーレス《永劫の探求》

 青心社文庫『クトゥルー2』がこの作品。一話ごとに語り手の代わる手記の連作。各話でシュリュズベリイ博士がクトゥルー教団と戦う若者をスカウトしていくゴーストハンターものとしてのクトゥルー神話。とくに第三部「クレイボーン・ボイドの遺書」は大叔父の遺品の調査から探索が始まり「クトゥルーの呼び声」の再話のよう。

リン・カーター《超時間の恐怖》

 『クトゥルーの子供たち』の中の「赤の供物」から「ウィンフィールドの遺産」までの六短編による連作。超古代と現代を交錯させつつ微妙なリンクによって連関している。その構成の仕方に世界観の広がりを感じさせるクトゥルー神話らしさがある。「クトゥルーの呼び声」の発展形を考えると短編連作という形になるのでは。

コリン・ウィルソン「ロイガーの復活」

 「クトゥルーの呼び声」におけるクトゥルーは夢を通して人類を支配しようとしていたようだ。人類の精神を支配するものの探求というテーマを引き継いだのがウィルソンだと言える。この「ロイガーの復活」は長編『賢者の石』に組み込まれる予定だった手記を独立させたもので、クトゥルー神話のサンプル、「クトゥルーの呼び声」のクローンのような作品。

ブライアン・ラムレイ『地を穿つ魔』

 《タイタス・クロウ・サーガ》第一巻。ゴーストハンターのタイタス・クロウが地底に潜む旧支配者クトーニアンと対決する。独立した短編としても読める手紙が組み込まれた情報収集の過程などは面白いが結末近くは散漫な印象。続巻へつなげるためかもしれないが、その二巻以降は雰囲気のまるで違うスペースオペラになってしまう。

J・G・バラード「時の声」

 クトゥルー神話以外からもう一作挙げる。バラードの代表的な短編。死んだ学者の研究を引き継いだ主人公が狂気に陥るまでを描いているという点で「クトゥルーの呼び声」と似ている。謎めいたオブジェや実験動物の変容といった未知の現象に関する多角的な情報の出し方など参考にしたい。

 で、ここからは宣伝です。

 前回の文学フリマでは私、小倉蛇は《髑髏水晶の魔女》シリーズの第一巻として「水晶の中の銀河」という小説のコピー誌を販売しました。この作品は現在は電子書籍化しパブーにて販売中です。一部100円。

 http://p.booklog.jp/book/121729


 そして来る5月6日の第26回文学フリマ東京にも出店します。

 https://bunfree.net/

 サークル名は《地下石版》、ブースは【イ‐32】です。
 販売するのは『夢幻都市の黄昏』というコピー誌のセットです。中身はクトゥルー神話短編6冊プラス小論1冊です。価格450円。
 気になる方は足をお運びください。

CTHULHUの呼び方

 Cthulhuを何と読むか?
 私は大概「クトゥルー」を使っている。
 理由は、青心社文庫の《クトゥルー》で主な作品を読んだから、か。
 あと、日本の小説家や研究者のほとんどがクトゥルーを使ってたということもある。

 とは言え、結局のところは、架空の神なんだし好きなように呼べばいいんじゃ、と思っていた。
 べつにク・リトル・リトルでもいいし、ぐらいに……

 だが、じっさい『新編真ク・リトル・リトル神話体系』を読んでみると違和感のある描写があった。
 以下はラヴクラフト+ダーレスによる「爬虫類館の相続人」(4巻所収)の中の文章である。

 ある種の神話上の怪物に関する秘密めいた考察が、それである。特に一方の怪物は〈ク・リトル・リトル〉と呼ばれ、もう一方のそれは〈ダゴン〉と名づけられているが、まったく聞いたことのない神話に登場する海の神々だった。


那智史郎訳)

 おわかりだろうか。後半で「まったく聞いたことのない神話」と言っているにもかかわらず、なぜか語り手は「ク・リトル・リトル」と読めている。これは不自然というべきだろう。
 つまりふつうの一般人が、手記などの文書に現れるCthulhuという表記を読む場合、「ク・リトル・リトル」というような発音は、いつそれを知ったのかが問題になる。

 神話主要作「クトゥルーの呼び声」も、普通の青年が大おじの遺した文書を読むことで進行する話である。
 なので、この作品における発音と表記の関係を確認してみよう。
 まず最初のCthulhuへの言及は以下の部分。

 中心的な文書は、『クトゥルー教団』という表題がつけられたもののようだった。聞き慣れない単語を誤読するのを避けるべく、わざわざ活字体で書かれている。


森瀬繚訳 文中の「教団」には「カルト」とルビ)

 「誤読するのを避けるべく、わざわざ活字体で」というのは文字通りに読めばよいといった意味だろう思われる。

 そして二番目の言及。

 その声は、妄想のみが音に変えることができるかもしれない混沌とした感じのものだったが、彼は発音の困難な言葉の寄せ集めを、どうにかこうにか「くとぅるぅ ふたぐん」と吟唱してみせた。


(同前 「くとぅるぅ ふたぐん」に「Cthulhu fhtagn」とルビ)

 と、この文章では発音の説明それ自体のためにCthulhuという表記が選ばれたことがわかる。
 さらに三度目の言及では「という文字で書き表せるもの」、四度目では「としか表現しようのない不気味な音節」と表記がそのまま発音をあらわしていることがくりかえし説明されている。

 だとすると、「クトゥルフ」はまだしも「ク・リトル・リトル」やその穏当なバージョン(?)「クルウルウ」などは、少なくとも「クトゥルーの呼び声」では使えないことになるのではないか。

 (ところでジョン・ディーが『ネクロノミコン』を英訳した際もCthulhuと綴ったのかは気になるところである。)
 
 で、だとして、「ク・リトル・リトル」という表記は単なる誤訳として投げ捨ててしまうべきか?
 んー、それも惜しい気がする。
 ポセイドンとネプチューンが同じ神みたいな例はあるわけだし。
 「ク・リトル・リトル」、どこか「きらきら星」のような煌めきがある。すでに固有の言霊が宿っているのだ。
 ではどうするのか?
 この表記を生き延びさせるためには、作品内世界で「ク・リトル・リトル」という言葉が広まるきっかけとなったエピソードを誰かが創作してくれればいいのだ。

アナグラム三題

その1

ある時ふとクトゥルーCthulhu)という名は、作者ラヴクラフト(Lovecraft)の姓のアナグラムではないか、という考えが浮かんだ。
ざっと思い浮かべるとCTLなどが含まれるので、何とかなりそうな気がするではないか。
で、実際やってみる……

うーむ、Uがない、Vが邪魔と思いつつ

coartlfve

こんな感じか。クートゥルフとだったら読めないだろうか。

逆にCthulhuからLovecraftへ近づけるように変換してみると

  luhcuht

ルフクフト氏……。

無意識的な変換ならば、多少のずれは許容範囲だとしても、うーん、微妙だな。


その2

ラヴクラフト(1890 - 1937)と同時代の日本の作家、芥川龍之介(1892 - 1927)。

芥とは要するにゴミのこと。
ゴミはクズと言い換えられる。
クズは九頭と変換できる。 → 九頭川龍之介
並べ替えると → 九頭竜川之介
九頭竜はクトゥルーの日本語表記として使われ、スケは女の意、あと川を側に変換すると

  クトゥルー側の女

これは“クトゥルー信者の女”という意味ではないか!

よし、これで、殺人事件の被害者が芥川龍之介の本を指差した死体で発見されるが、それは「犯人はクトゥルー信者の女」をあらわすダイイングメッセージだった、という探偵小説が書ける。

その3

ウィキペディアによるとクトゥルフにはCathulu, Kutulu, Q'thulu, Ktulu, Cthulu, Kthulhut, Kulhu, Thu Thu, Tuluなどの綴りもあるらしい。

ならば、

  Qartlu

でもクトゥルーと読めるだろうか?
うん、読める。
ではこれを逆から書くと……

  UltraQ

そう、ウルトラQ
ウルトラQ」というタイトルは「クトゥルー」のアナグラムだったのだ!?

円谷プロにはぜひ、絵の具の上の“UltraQ”のロゴがぐにゃーと回転して“Qartlu”になるオープニングで始まる特撮ドラマを作って欲しい。

『君の名は。』と「時間からの影」

注:ネタバレ有り

 ネット上にもちらほら指摘があるがアニメ映画『君の名は。』とH・P・ラヴクラフトの小説「時間からの影」はストーリーが似ている。
 具体的にどこが似ているのか、以下に挙げてみる。

・主人公が別の誰かと精神が入れ替わる(いわゆる精神交換)。
・精神交換の間の出来事を主人公は夢だと思っている。
・主人公が精神交換の相手の土地を訪ねる。
・その土地はすでに滅びている。

 という一連の流れがそっくり同じである。

 もちろん違っている点もある。

・まず、精神交換の相手。『君の名は。』は女子高生、「時間からの影」では〈イスの大いなる種族〉である。
・そして、相手の土地を訪ねる理由が、『君の名は。』は相手の女子高生に会うため主人公自ら調べて行くのだが、「時間からの影」では、学術調査で赴いた土地で偶然辿り着いてしまう。
・土地が滅びた原因が『君の名は。』は隕石の落下、「時間からの影」では種族ごと〈強壮な甲虫類〉に精神を転移させたため。
・精神交換は『君の名は。』では主人公たちにだけ起こる、「時間からの影」はテクノロジーとして確立されている。

 さらに重要なポイントとして『君の名は。』の方が長いということがある。
 つまり「時間からの影」のストーリーと対応している部分が終わっても、『君の名は。』はさらに先まで続く。
 と、いうことは、『君の名は。』を「時間からの影」から変換されたものと考えるとして、それをさらに『君の名は。』から「時間からの影」へと逆変換してやると、自動的に「時間からの影」のより長いヴァージョンが出来てしまう。

 そんなわけで以下、『君の名は。』をベースに考えた「続・時間からの影」のあらすじである。

 ピースリー教授はオーストラリアの砂漠で〈大いなる種族〉の遺跡を発見した。
 〈大いなる種族〉はすでに精神を〈強壮な甲虫類〉に転移させているのだが、遺跡に残された記録を調べると、精神転移の直前に〈飛行するポリプ〉によって500体以上の〈大いなる種族〉が虐殺されていることがわかる。
 地下に封印されていた〈飛行するポリプ〉は、星辰の配置により力を得、自ら封印を破壊したのだ。
 殺された〈大いなる種族〉の中にはピースリー教授が精神交換していた相手もいた。
 ピースリー教授は精神交換の相手に対し、訳のわからない使命感から、何とか救う方法はないかと考える。
 そして、遺跡に保管されている〈大いなる種族〉が体液によって発酵させた酒によってタイムトラベルが可能であることを思いつく。
 保管されていた酒を見つけ出し飲んでみると、思った通り〈飛行するポリプ〉が復活する前の世界の、〈大いなる種族〉の身体で目覚める。
 〈飛行するポリプ〉の復活を阻止するために、他の〈大いなる種族〉に協力を求めるが信じてもらえない。
 黄昏時、砂漠でピースリー教授の身体に入っている〈大いなる種族〉と出会う。
 相手の名前を聞こうとするが時間切れで元の身体に戻ってしまう。
 だがその後、記録を調べると歴史が変わり、〈飛行するポリプ〉による死者は出なかったことに。
 アーカムに帰ったピースリー教授はこれらの出来事を忘れてしまうが、数年後、教授の前に一体の〈強壮な甲虫類〉があらわれる……


 うーむ、むずかしいのは『君の名は。』と違ってピースリー教授には〈大いなる種族〉が死んだからといって助ける理由がないということ。なので「訳の分からない使命感で」ということにしてしまった。
 動機を強化するなら、現在も砂漠をさまよっている〈飛行するポリプ〉が(そういう描写はラヴクラフト作にもある)ミスカトニック大学の調査隊を襲って全滅させてしまったことにしてもいい。
 あるいは、ここも『君の名は。』に寄せて恋愛関係にする手もあるが……。この場合なら〈甲虫類〉との再会はハッピーエンドになる。そうでないならば、抑圧されていた恐怖の記憶が一気によみがえりSAN値ゼロに、というクトゥルーエンドになるだろう。