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クトゥルー神話の分類

 ラヴクラフトの作品というのは、いくつかの単純な型があって、その型がくりかえし使われながら、より複雑な作品へと発展していっている。
 その型(形式)がシンプルに現れている短めの作品を挙げると、以下の五作となる。

  「ダゴン」「神殿」「魔宴」「ピックマンのモデル」「彼方より」

 では、それぞれに名前を付けて、どんなパターンかを以下で説明する。
 自分でクトゥルー神話の創作をしてみたいという人にも参考にしてもらえたらと思う。

1.猟犬型「ダゴン」

 狙った人間を猟犬のようにどこまでも追跡してくる魔物の話ということで《猟犬型》。
 だいたい次のようなパターン。

  遭難や探検の結果、遺跡のような場所に迷い込む
   ↓
  そこで邪神の存在を実感するような出来事が起こる
   ↓
  主人公は逃げ出してひとまず安全な場所にたどり着く
   ↓
  体験を伝える手記などを書いていると魔物に襲われる

 他の作家の作品では、ロバート・E・ハワード「屋根の上に」やフランク・B・ロング「ティンダロスの猟犬」などがある。
 「ダゴン」が手記がそのまま作品になっているのに対して、この二作は友人の出来事を伝える形になっている。

 もう一作、ブライアン・ラムレイ『地を穿つ魔』の中の第三章「迫りくる危機」も《猟犬型》の手記になっている。このように手記型の短編は、長めの作品の一部に組み込んで使われることもある。

2.神殿型「神殿」

 神殿のような場所に人間が引き寄せられていくパターンが《神殿型》。
 《猟犬型》が身体を物理的に傷つけられるのに対して、《神殿型》は精神を冒される型。

 この型のパターンは例えば次のようなもの。

  旅の途中で不吉な出来事が起こる
   ↓
  特定の方向に引き寄せられていく
   ↓
  何とか抵抗しようとするが逃れられない
   ↓
  邪神と遭遇し狂気におちいる

 他の作家の作品では、ロバート・ブロック「無貌の神」やクラーク・A・スミス「ウボ=サスラ」がある。
 「無貌の神」は砂漠を円環状に回ってしまう話、「ウボ=サスラ」は時間をさかのぼって過去へ引き寄せられる話。
 この二作を掛け合わせると時間が円環になる話になって、つまりタイム・ループものになる。

3.血族型「魔宴」

 主人公自身がじつは邪悪なものの血族だったことを知る話、これが《血族型》。
 パターンはこんな感じ。

  観光や調査などで小さな村を訪れる
   ↓
  村の住民は同じ血族らしい特徴がある
   ↓
  村人の行動に危険を感じ逃げ出す
   ↓
  自分も同じ血族だったことを知る

 他の作家で参考になる作品は、ヘンリー・カットナー「クラーリッツの秘密」やオーガスト・ダーレス「ルルイエの印」など。
 ラヴクラフトでは「インスマウスの影」も《血族型》。
 この型というと〈深きもの〉テーマになりがちだが、「魔宴」や「クラーリッツの秘密」は妖術師の子孫だし、〈(邪神名)の落とし子〉という形で新たな血族設定を作ることも可能だろう。

4.再現型「ピックマンのモデル」

 幻想と思って目にしたものが、現実のものとして再現されるのが《再現型》。
 夢だと思われたものが現実だったという展開で、いわゆる夢オチの逆。

 パターンはだいたい次の通り。

  幻想的で悍ましい芸術作品を目にする
   ↓
  その作者の素性が明かされる
   ↓
  作者のもとを訪ね話を聞く
   ↓
  作品のモデルが実在していたことを知る

 この型の参考作品は、C・A・スミス「彼方よりのもの」やロバート・ブロック「暗黒のファラオ神殿」がある。
 ラヴクラフトでは「クトゥルーの呼び声」もこの型。
 クトゥルー神話の多くの作品が〈ラヴクラフトの小説は現実だった〉という構成なので、この《再現型》が、クトゥルー神話の基本形といえるだろう(ここからクトゥルー神話の定義を考えることができるが、それは次回書く)。

5.召喚型「彼方より」

 邪神の召喚が行われ、それが阻止されるのが《召喚型》。
 基本的なパターンは以下の通り。

  友人に呼び出されるかあるいは訪ねていく
   ↓
  友人は狂気に冒されている様子
   ↓
  邪神召喚の実験や儀式が始められる
   ↓
  邪神が姿を見せるが侵入は阻止される

 この型の参考作品は、ヘンリー・カットナー「セイレムの恐怖」やオーガスト・ダーレス「闇に棲みつくもの」など。
 ラヴクラフトでは「ダンウィッチの怪」もこの型。
 この《召喚型》の主人公を、他の作品でもくりかえし怪異に立ち向かうような連作にすると、いわゆる〈ゴーストハンターもの〉になる。

ラヴクラフトの中編

 ラヴクラフトの後期の中編のうちドリームランドものの幻想譚「未知なるカダスを夢に求めて」は別にして、他の三篇は上記の形式の発展形と言える。
 人類の起源が明かされる「狂気の山脈にて」は《血族型》(もはや血族という概念は超えているが)。
 主人公が当初、精神交換の間の出来事を夢として認識している「時間からの影」は《再現型》。
 異界のものから知識を得ようとする妖術師を描いた「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」は《召喚型》。

 さらにこの三作には、新たに《天敵型》とでも呼ぶべきパターンがあらわれている。簡単に言うと「上には上がいる」といった形式。つまり、まず人類の脅威になるような強敵が現れ、そして結末では、その敵が恐れる敵、すなわち〈天敵〉の存在が明らかになる。
 「狂気の山脈にて」の古きものに対してのショゴス、「時間からの影」の偉大な種族に対してのポリプ状生物、「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」のジョゼフ・カーウィンに対しての杯からあらわれたもの、これらが〈天敵〉にあたる。