『君の名は。』と「時間からの影」

注:ネタバレ有り

 ネット上にもちらほら指摘があるがアニメ映画『君の名は。』とH・P・ラヴクラフトの小説「時間からの影」はストーリーが似ている。
 具体的にどこが似ているのか、以下に挙げてみる。

・主人公が別の誰かと精神が入れ替わる(いわゆる精神交換)。
・精神交換の間の出来事を主人公は夢だと思っている。
・主人公が精神交換の相手の土地を訪ねる。
・その土地はすでに滅びている。

 という一連の流れがそっくり同じである。

 もちろん違っている点もある。

・まず、精神交換の相手。『君の名は。』は女子高生、「時間からの影」では〈イスの大いなる種族〉である。
・そして、相手の土地を訪ねる理由が、『君の名は。』は相手の女子高生に会うため主人公自ら調べて行くのだが、「時間からの影」では、学術調査で赴いた土地で偶然辿り着いてしまう。
・土地が滅びた原因が『君の名は。』は隕石の落下、「時間からの影」では種族ごと〈強壮な甲虫類〉に精神を転移させたため。
・精神交換は『君の名は。』では主人公たちにだけ起こる、「時間からの影」はテクノロジーとして確立されている。

 さらに重要なポイントとして『君の名は。』の方が長いということがある。
 つまり「時間からの影」のストーリーと対応している部分が終わっても、『君の名は。』はさらに先まで続く。
 と、いうことは、『君の名は。』を「時間からの影」から変換されたものと考えるとして、それをさらに『君の名は。』から「時間からの影」へと逆変換してやると、自動的に「時間からの影」のより長いヴァージョンが出来てしまう。

 そんなわけで以下、『君の名は。』をベースに考えた「続・時間からの影」のあらすじである。

 ピースリー教授はオーストラリアの砂漠で〈大いなる種族〉の遺跡を発見した。
 〈大いなる種族〉はすでに精神を〈強壮な甲虫類〉に転移させているのだが、遺跡に残された記録を調べると、精神転移の直前に〈飛行するポリプ〉によって500体以上の〈大いなる種族〉が虐殺されていることがわかる。
 地下に封印されていた〈飛行するポリプ〉は、星辰の配置により力を得、自ら封印を破壊したのだ。
 殺された〈大いなる種族〉の中にはピースリー教授が精神交換していた相手もいた。
 ピースリー教授は精神交換の相手に対し、訳のわからない使命感から、何とか救う方法はないかと考える。
 そして、遺跡に保管されている〈大いなる種族〉が体液によって発酵させた酒によってタイムトラベルが可能であることを思いつく。
 保管されていた酒を見つけ出し飲んでみると、思った通り〈飛行するポリプ〉が復活する前の世界の、〈大いなる種族〉の身体で目覚める。
 〈飛行するポリプ〉の復活を阻止するために、他の〈大いなる種族〉に協力を求めるが信じてもらえない。
 黄昏時、砂漠でピースリー教授の身体に入っている〈大いなる種族〉と出会う。
 相手の名前を聞こうとするが時間切れで元の身体に戻ってしまう。
 だがその後、記録を調べると歴史が変わり、〈飛行するポリプ〉による死者は出なかったことに。
 アーカムに帰ったピースリー教授はこれらの出来事を忘れてしまうが、数年後、教授の前に一体の〈強壮な甲虫類〉があらわれる……


 うーむ、むずかしいのは『君の名は。』と違ってピースリー教授には〈大いなる種族〉が死んだからといって助ける理由がないということ。なので「訳の分からない使命感で」ということにしてしまった。
 動機を強化するなら、現在も砂漠をさまよっている〈飛行するポリプ〉が(そういう描写はラヴクラフト作にもある)ミスカトニック大学の調査隊を襲って全滅させてしまったことにしてもいい。
 あるいは、ここも『君の名は。』に寄せて恋愛関係にする手もあるが……。この場合なら〈甲虫類〉との再会はハッピーエンドになる。そうでないならば、抑圧されていた恐怖の記憶が一気によみがえりSAN値ゼロに、というクトゥルーエンドになるだろう。