『ウルトラマン』の中のクトゥルー神話

 『ウルトラマン』の中のクトゥルー神話というと『ウルトラマンティガ』にガタノゾーアという怪獣が登場した話があるが、それはさておき、ここでは(初代の)『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』のあるエピソードについて書く。


 『ウルトラマン』第20話「恐怖のルート87」にはヒドラという怪獣が登場した。
 クトゥルー神話ではハイドラやヒュドラと表記されることが多い"Hydra"だが、ギリシア神話などでは普通にヒドラという表記も使われるので同じ名前といえる。
 ギリシア神話におけるヒドラは、多頭の蛇で、一つの首を切り落とすとそれが二つになって再生するという怪物である。
 (ヘンリー・カットナーの「ヒュドラ」では、切断された首が無数に融合した存在が描かれていて、これもギリシア神話からのイメージと思われる。)


 『ウルトラマン』のヒドラは鳥型である。
 そもそもラヴクラフトの「インスマウスの影」におけるヒュドラダゴンとつがいという以外には説明がないので、例えば、〈海のダゴンと空のヒドラ〉という風に考えれば鳥型という想像もできなくはない。
 このヒドラは、伊豆シャボテン公園に実在する荒原竜という巨大な像がモデルになっている。
 「恐怖のルート87」作中の設定では、この像は子供からデザインを募集したものということになっている。そして本物のヒドラが出現したために、デザインが当選した子供を科特隊の隊員が訪ねることになる。
 その子供は交通事故ですでに死んでいるのだが、その子がいた孤児院の部屋には今も怪獣の絵が飾られている。孤児院の女性は、その子はヒドラは本当にいると信じていたと語る。
 それを聞いたイデ隊員は「夢でも見たんじゃないか」と言う。


 この話はふつうに考えれば、交通事故で死んだ子供が幽霊になって出たときに、その子が想像していた怪獣もいっしょに現れて自動車に復讐する、ということだと思う。
 だが、別の解釈として、ヒドラはもとから実在していて、子供の精神とのある種の共感によって夢に現れていた。共感していた子供を自動車に殺されてヒドラは復讐を始めた、と考えることもできる。
 こう考えると、子供の描いたヒドラの絵は、「クトゥルーの呼び声」における粘土板の浅浮彫と共通するモチーフであるといえる。


 その子供だが、じつは話の初めの方で本部にいるアキコ隊員の前に現れ、ヒドラが暴れるという予言のような警告をしていた。
 「恐怖のルート87」の脚本は金城哲夫である。同じ金城脚本の『ウルトラセブン』の中にも、すでに死んでいる子供による警告から始まる話がある。それが、第42話「ノンマルトの使者」なのである。
 ノンマルトとは、現人類より以前から地球に住んでいたとされる海底人で、その海底都市がウルトラ警備隊の潜水艦からの攻撃で滅ぼされるという展開も含めて、やはり「インスマウスの影」などのクトゥルー神話を思わせる設定である。


 つまり、金城哲夫脚本による、死んだ子供による予言という場面をもつ二作「恐怖のルート87」と「ノンマルトの使者」は、ともに〈夢に現れた怪獣の絵〉と〈人類以前の海底種族〉というクトゥルー神話的な要素を持ち、そこへヒドラという名前の怪獣が登場しているのだから面白い偶然である(あるいは偶然以上の何かを読み取るべきなのか)。


 と、いうわけで次回はクトゥルー神話風に改変した「ノンマルトの使者」を書いてみようと思う。